『京都市イーストサイド 銀色三角形の旅』 vol.1 「おけいはん」

公開中 2020-01-29 @daisuke 0


「あきれた」


そんな言葉が、ふと口に出た。というのも、昨日の昼ごろ、仮眠のつもりで眠ったのに、起きたら日付をまたいでいたからだ。二度寝三度寝の末、都合13時間ほど眠ったことになる。


平日昼間からここまで眠ることは、これまでなかった。一つの事実として、この点をしっかりと書き記しておく。決して、自己保身ではない。なにせ、僕自身も相当に驚いた出来事だったのだから。


起き抜け(午前3時)から仕事を始めたが、大きな仕事は昨日終えていたので、どうも前のめりにならなかった。


やることがなかったわけでも、やる気がなかったわけでもないが、なにか大切なものが自分に足りていなかったのだ。慣れない長時間睡眠の間に、落っことしてきたのだろうか。


それでもなんとか折り合いをつけて、仕事を続行する。今日の仕事はアイデア出し。あーでもないこーでもないと、頭をひねる。答えのない暗闇をさまよう。それが今日の仕事だった。


なんとなく予感していたが、やはりアイデア出しに苦労した。得てして、こういう予感はあたってしまうもので、すぐ頭がグルグルしてきた。


仕方ないので、気を紛らわせるために、自分が旅行する想像をする。「ここのところ、おでかけしていないな〜」と率直な感想を覚えた。


その時突如として浮かび上がったのは、京都だった。理由はわからない。暗闇は、ゆっくりと、でも確かにキラキラ光りはじめた。


「京都って意外と知らないところばかりだな」


京都には何度も何度も行ったことがある。なぜか僕の悪友には京都好きが多く、縁もゆかりもないのに京都で酒を飲むことが多かったのだ。修学旅行も京都だった気がするし。


しかし、思い返してみると、自分の意思で主体的に京都の観光スポットへ行こうと思ったことがない。修学旅行も、友人との遊びも、すべて誰かが決めたおでかけに便乗していたものだった。


僕が長らく大阪に住んでいたことも、京都を知らない理由であった。おもしろいもので、「いつでも行ける」という状況が、かえって足を遠のかせるのだ。


僕は、京都近くに住んでいる京都初心者なのだ。



そういえば、実は行ってみたいところが京都にあった。有名と言えば有名だけど、マイナーと言えばマイナー。そんな場所。


この場所を思い出したとき、頭の中の光はさらに存在感を高めた。スポットライトのように、力強い光となって。


グッと京都へ誘われる。目に見えない「なにか」によって、猛烈に誘われる。しかし、僕は半信半疑だ。この招待の正体が、よくわからなかったから。


「そうだ 京都、行こう。」


昔聞いたキャッチコピーが、頭をよぎる。案外、普段意識しないことも覚えているもんだ。


「京都行きたい」

「今、遊んでいるわけにはいかない」


対立する思惑、葛藤。拮抗した勝負。僕は、葛藤から逃げ出すように、浴室へ逃げ込んだ。シャワーを浴びて、身の振り方を冷静に決めることにした。



(20分後)


おでかけすることにした。シャワーを浴びた時点で、答えは出ていたのである。迷いや葛藤とは裏腹に、おでかけ態勢は完璧に整っていた。


「inkline.jp の次の機能を膨らませるため」「後学のため」というのは、表向きの理由だ。罪悪感を和らげるためのエクスキューズであって、実際は遊びや気分転換に近い。


だがまぁ、一応仕事の一環だ。そう思い込むことにした。今回のおでかけは、体裁が整った正当なものなのである。


たった一人のおでかけ、小旅行、エクスカーション。久しぶりだ。「おでかけ好き」と自認しているが、ここのところあらゆる事情で、二の足を踏んでいた。


でも今回は、あまりにも長時間寝たことで、かえって開き直ることができた。


13時間も寝たら、人は強くなれるらしい。



朝7時すぎ。夜型の僕にはめずらしく、早い時間の電車に乗った。もっとも、世は平日。金曜日朝の通勤時間である。


朝早いというのに、人は多い。スーツ、作業着、制服、ビジネスカジュアル。大人も子供も、あるべき装いで向かうべき場所へ向かう。


彼らは、私服にリュックというカジュアルな格好の僕を、どんどん抜いていく。


僕は、さまざまな思いを胸に抱きながら、緑の電車に乗車した。逃げるように小旅行していること、私服でいること、一日の予定がふわっとしていること。



この電車は、京阪本線を三条方面へ疾走している。


「おけいはん」


そんなあだ名で愛される緑の電車、京阪電車。京阪本線は、京阪電車の主たる路線で、大阪の淀屋橋(や中之島)と出町柳をおおよそ右肩上がりに結んでいる。


梅田、なんば、京都、四条、三宮。関西のビッグシティをことごとく通らないその路線は、関西の私鉄では逆にユニークである。


京阪に乗るのは、3回目。1回目は、友達と京都から大阪へ向かったときで、2回目は連れの結婚式で。いずれも、自分の意思ではなかった。


そして、3回目。今回、はじめて自分の意思で京阪電車へ乗車した。ついに、「おけいはん」の称号を手に入れたのである。


今回は、京都市内の東側をメインに攻める。京都市のイーストサイドまで乗り付けている京阪電車は、都合がよかった。横並びの座席が空いていたので、僕は腰掛けることにした。


車窓から、曇天の大阪が見えた。

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